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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)48号 判決

原告

発紘電機株式会社

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁理士

【B】

被告

特許庁長官【C】

指定代理人

【D】

【E】

【F】

【G】

【H】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成10年審判第5010号事件について、平成10年12月28日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成元年1月19日、名称を「汎用表示操作装置」とする発明(出願後に名称を「電気制御装置用の表示操作ユニット」と変更、以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願平1ー11416号)が、平成10年2月18日に拒絶査定を受けたので、同年4月1日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成10年審判第5010号事件として審理したうえ、平成10年12月28日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は平成11年1月25日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

ドット表示器と、該ドット表示器の前面に配設する透明なスイッチ板と、ユニット本体とからなり、該ユニット本体は、表示画面作成用のデータを含む外部からのコマンドに対応して前記ドット表示器の表示画面を作る表示画面作成部と、該表示画面作成部によって起動され、表示画面に含まれるスイッチを特定するための情報をスイッチマトリクスに書込み更新するスイッチマトリクス作成部と、前記スイッチ板の押し操作位置を検出する走査部と、該走査部の出力と前記スイッチマトリクスの内容とを照合し、操作されたスイッチを特定して外部に出力信号として出力するスイッチ検出部とを備えることを特徴とする電気制御装置用の表示操作ユニット。

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、特開昭60ー54018号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

第3原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例記載事項の認定(審決書3頁4~8頁12行)のうち、引用例発明が「操作された操作器表示を特定して給水制御装置などの外部に出力信号として出力する」(同7頁6~7行)ものであること、及び引用例に記載された原子炉給水制御装置用のプロセス制御装置が「操作された操作器表示を特定して外部に出力信号として出力するタッチスクリーン入力処理部14」(同8頁8~10行)を備えることを除く、その余の部分、本願発明のドット表示器、スイッチ板、ユニット本体、表示画面作成部、スイッチ及び走査部が、それぞれ引用例発明のCRT表示装置2、タッチスクリーン1、制御機能部3・4・5・6、CRT表示部11、操作器表示2e・2f及びタッチスクリーン制御装置3に相当し、本願発明の総括的な構成である表示操作ユニットが引用例発明のプロセス制御装置に相当すること、本願発明と引用例発明との相違点(1)~(3)の各認定並びに相違点(1)についての判断は認める。

審決は、引用例発明の技術事項を誤認して、本願発明と引用例発明との一致点の認定を誤り(取消事由1)、また、相違点(2)及び同(3)についての判断を誤った(取消事由2、3)結果、本願発明が、引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(一致点の認定の誤り)

(1)  審決は、引用例発明の原子炉給水制御装置用のプロセス制御装置が、「操作された操作器表示を特定して給水制御装置などの外部に出力信号として出力する」(審決書7頁6~7行)ものであって、「操作された操作器表示を特定して外部に出力信号として出力するタッチスクリーン入力処理部14」(同8頁8~10行)を備えるものであるとし、本願発明の「スイッチ検出部」が引用例発明の「タッチスクリーン入力処理部14」に相当すると認定した(同8頁16行~9頁3行)うえで、この認定を前提として、本願発明と引用例発明とが、相違点(1)~(3)を除くその他の点で一致すると認定した(同9頁8行~10頁10行)が、それは誤りである。

すなわち、引用例発明のタッチスクリーン入力処理部14は、タッチスクリーン制御装置3からのX、Y座標値の出力と、表示位置記憶部15に予め記憶している内容である操作器の表示位置とを照合し、操作された操作器表示を特定するものであるとしても、その特定の結果を、給水制御装置などの外部に出力信号として出力するものではない。何故なら、引用例の「給水流量操作表示2eの位置をタッチスクリーン1に対して指で触れた場合、タッチスクリーン1はX-Y位置に応じた電気信号をタッチスクリーン制御装置3に対して発する。タッチスクリーン制御装置3はX-Y位置を・・・プロセス計算機5に送出する。また、同時に割込信号を感圧している期間、周期的に発生する。これにより、タッチスクリーン入力処理部14はタッチスクリーン制御装置3からの割込信号があるたびに第7図の流れ図に従って動作する。すなわち、タッチスクリーン制御装置3からのX,Y座標が表示位置記憶部15にあらかじめ記憶している操作器の表示位置と照合し、増もしくは減の操作か判定する。この場合、2eの位置を触れているので“減”操作を行なう。すなわち、・・・CRT表示装置2上の2c、2d表示を変化させるため、あらたに計算された給水制御設定値をCRT表示部11を通じて表示する。また、同時に、給水制御設定値を給水制御装置に伝えるため、接点出力部13を通じて接点信号を送出する。」(甲第4号証3頁右上欄8行~左下欄10行)との記載に照らして、タッチスクリーン入力処理部14が接点出力部13を通じて給水制御装置に出力するのは、操作器表示2e、2fのいずれが触れられたかではなく、操作器表示2e、2fのいずれかが触れられたことによって増加又は減少された給水制御設定値であるからである。

したがって、引用例発明のタッチスクリーン入力処理部14は、「操作された操作器表示を特定して外部に出力信号として出力する」ものではないから、本願発明の「操作されたスイッチを特定して外部に出力信号として出力するスイッチ検出部」(本願発明の要旨)とは異なるものであり、審決のした、本願発明の「スイッチ検出部」が引用例発明の「タッチスクリーン入力処理部14」に相当するとの認定及びこの認定を前提とする一致点の認定は誤りである。

この点につき、被告は、制御システムにおいて用いられるスイッチは制御対象に様々な制御動作を実行させることを目的として設けられるものであり、タッチスクリーン上にスイッチを表示するものにおいては、操作されたスイッチのタッチスクリーン上でのX-Y位置を特定するだけではなく、操作されたスイッチに対応する制御動作に係る制御信号を出力する必要があることは技術常識であって、本願発明においても同様であるから、本願発明の要旨の「操作されたスイッチを特定して外部に出力信号として出力するスイッチ検出部」との規定における「出力信号」は、操作されたスイッチを特定し、特定されたスイッチに対応する制御動作を行わせる信号であると解するのが自然であると主張するが、該主張は、引用例発明と本願発明とを、その各構成要件を不当に抽象化、一般化して対比したうえ、本願発明の要旨に基づかないで本願発明の解釈を行うものであって、誤りである。

(2)  被告は、審決の認定に一致点の誤認があるとしても、本願発明のスイッチ検出部と引用例のタッチスクリーン入力処理部14とは、操作されたスイッチを特定して、外部に出力信号を出力するとの点では一致し、該一致点の誤認は「外部に出力される信号が、本願発明においては、当該スイッチが操作された旨の信号であるのに対し、引用例発明においては、スイッチに対応する制御対象の制御動作のための信号である点」との相違点の看過に帰するものであるが、制御対象に特定の制御動作を実行させるためには、制御動作を実行させるための信号を必ず必要とし、この信号を制御装置を構成するどの要素から出力させるようにするかは設計上の微差にすぎないというべきであるから、引用例発明が制御動作を実行させるための信号を出力するように付加構成し、本願発明がそのような構成を削除したものであっても、その相違は設計上の微差であって、その相違につき容易推考性の判断をしなければならないような実質的な相違であるといえず、審決の一致点の誤認は審決の結論に影響を及ぼすものではないと主張する。

しかしながら、本願発明のスイッチ検出部と引用例のタッチスクリーン入力処理部14とが操作されたスイッチを特定して、外部に出力信号を出力するとの点では一致するとの主張は誤りであり、したがって、審決の一致点の誤認が「外部に出力される信号が、本願発明においては、当該スイッチが操作された旨の信号であるのに対し、引用例発明においては、スイッチに対応する制御対象の制御動作のための信号である点」との相違点の看過に帰するとすることも誤りである。引用例発明について、外部に出力される信号が制御対象の制御動作のための信号であるとすることは、引用例発明の構成を不当に抽象化、一般化するものである。

また、本願発明についても、制御対象に特定の制御動作を実行させるためには、制御動作を実行させるための信号を必ず必要とするというような抽象化、一般化をして引用例発明と対比することは不当である。本願発明は、スイッチに対応する制御動作である運転・停止を制御対象に行わせるための信号を必要としない。

審決は、本願発明と引用例発明との一致点の認定を誤り、相違点を看過して本願発明の進歩性を否定する誤った結論に至ったものであるから、被告が、審決の一致点の誤認は審決の結論に影響を及ぼすものではないと主張することも失当である。

2  取消事由2(相違点(2)についての判断の誤り)

(1)  審決は、本願発明と引用例発明との相違点(2)である「本願発明の表示画面は表示画面作成用のデータを含む外部からのコマンドに対応して作られるのに対し、引用例の表示画面は画面選択操作器表示17(画面選択スイッチ1~5)に対応して作られる点」(審決書9頁14~18行)につき、「引用例の画面選択スイッチ(1~5)も表示画面を作るコマンドを形成するものであり、それに対応してCRT表示部11に送られる画面番号は表示画面作成用のデータに他ならないから、引用例のものも画面作成用のデータを含むコマンドに対応して表示画面が作られるものである。そして、画面作成用のデータを含むコマンドを特に本願発明のように外部からのコマンドとする点に格別の意義および困難性は認められないから、本願発明の上記相違点(2)はコマンドを形成する上での設計上の微差にすぎず、格別なものとはいえない。」(同11頁1~11行)と判断したが、それは誤りである。

すなわち、引用例発明の画面選択操作器表示17(画面選択スイッチ1~5)は、CRT表示部11によりCRT表示装置2上に表示される操作パネル図の一部に表示されるスイッチであり、作業員は、それに触れることにより、予め定められている別の表示画面を手動によって切換表示させることができるだけであって、外部の表示操作対象の作動状況の変化に対応して、適切な表示画面を自動的に表示したり、適切なガイドメッセージ等を併せて自動表示したりすることは全くできない。

これに対し、本願発明は、表示画面作成用のデータを含むコマンドを外部からのコマンドとすることにより、外部の表示操作対象の作動状況に応じて適切な表示画面を自動的に表示することができるものであり、それによって作業員による運転操作を極めて簡単にし、その負担を大幅に軽減することができるうえ、作業員による誤操作を防止して安全性の向上を図ることができるという固有の顕著な効果を奏するものである。

そうすると、本願発明の要旨の「表示画面作成用のデータを含む外部からのコマンドに対応して前記ドット表示器の表示画面を作る表示画面作成部」との規定に係る、表示画面作成用のデータを含むコマンドを外部からのコマンドとする点は、それが存在して初めて本願発明の固有の作用効果を実現し得るのであり、それ自体技術的に極めて重要であることが明らかである。したがって、審決の上記判断が誤りであることは明白である。

この点に関し、被告は、本願発明の要旨が、外部からのコマンドにつき、外部の表示操作対象の作動状況に応じて適切な表示画面を自動的に表示する等の限定をするものではなく、また、その点について本願明細書(平成10年4月1日付手続補正書による補正後のもの、以下単に「本願明細書」という。)の発明の詳細な説明にも記載がないと主張するが、外部の表示操作対象の作動状況に応じて適切な表示画面を自動的に表示することができることは、本願発明の「表示画面作成用のデータを含む外部からのコマンド」との構成から必然的に導かれる作用効果である。

(2)  また、被告は、実願昭61ー146657号(実開昭63ー53104号)のマイクロフィルム(乙第1号証、以下「周知例1」という。)、特開昭63ー158584号公報(乙第2号証、以下「周知例2」という。)を引用して、本願出願当時、表示画面との対話形式によって運転操作を実行するための表示操作ユニットの技術分野において、外部からのコマンドによって表示画面を切り換えることが技術常識であり、かつ、この外部からのコマンドが表示画面作成用のデータを含むものであることは当業者が容易に理解できることであると主張する。

しかしながら、周知例1には、プロセス制御装置からのコマンドにより、ビデオプロジェクタの表示画面が切り換えられることが示唆されているが、該コマンドについて具体的に説明されているわけではなく、ビデオプロジェクタの具体的な構成も不明であるから、周知例1によって、ビデオプロジェクタに供給されるコマンドの内容を具体的に推定することが不可能であり、それが「表示画面作成用のデータ」を含むか否かも不明である。また、周知例2には、外部からのコマンドによってCRT表示装置の表示画面を切り換えることについて、何らの記載もなく、示唆されてもいない。したがって、被告の上記主張は失当である。

さらに、被告は、引用例発明の表示画面を作るコマンドを形成する画面選択スイッチ1~5を外部からのコマンドに置き換えることを阻害すべき事情が存在しないと主張するが、引用例発明において、表示画面を作るコマンドを形成するのは、画面番号をCRT表示部11に送るタッチスクリーン入力処理部14であって、画面選択スイッチ1~5は、タッチスクリーン入力処理部14からのコマンドが発生する契機を提供するためのスイッチにすぎず、表示画面を作るコマンドを形成するものではあり得ない。したがって、画面選択スイッチ1~5を外部からのコマンド、特に「表示画面作成用のデータを含む外部からのコマンド」に置き換えるなどということは、技術的に全く成立しないから、引用例発明の画面選択スイッチ1~5を外部からのコマンドに置き換えることに技術的に阻害要因があることは明白である。

この点について、被告は、「表示画面を作るコマンド」はタッチスクリーン入力処理部14の出力する画面番号であり、この画面番号は画面選択スイッチ1~5を触れることにより形成されるものであるから、画面選択スイッチ1~5が「表示画面を作るコマンド」を形成するものであるとの認識に誤りはないと主張し、さらに、表示画面を作るコマンドを形成するのがタッチスクリーン入力処理部14であるとしても、コマンドと画面選択スイッチ1~5の対応関係が明確に一対一である以上、画面選択スイッチ1~5を「表示画面を作るコマンドを形成する」ものとして認定することに何ら誤りはないとも主張する。しかしながら、「表示画面を作るコマンド」はタッチスクリーン入力処理部14の出力する画面番号であり、この画面番号が、画面選択スイッチ1~5を触れることによって形成されるとしても、「表示画面を作るコマンド」を形成するのがタッチスクリーン入力処理部14であることは明白である。また、コマンドと画面選択スイッチ1~5の対応関係がいかに明確に一対一であろうとも、「表示画面を作るコマンド」を形成するのがタッチスクリーン入力処理部14から画面選択スイッチ1~5に変わることはあり得ない。

3  取消事由3(相違点(3)についての判断の誤り)

審決は、本願発明と引用例発明との相違点(3)である「本願発明は『表示画面作成部によって起動され、表示画面に含まれるスイッチを特定するための情報をスイッチマトリクスに書込み更新するスイッチマトリクス作成部』を備え、走査部の出力は該マトリクス作成部で作成されたマトリクスの内容と照合されるのに対し、引用例はスイッチを特定するための情報はあらかじめ表示位置記憶部15に記憶され、タッチスクリーン制御装置3からの出力は該表示位置記憶部15に記憶された情報(表示座標Xij、Yij)と照合されるものであり、かかるスイッチマトリクス作成部の構成は記載されていない点。」(審決書9頁19行~10頁10行)につき、「引用例のCRT表示装置2に表示される選択画面を変更する場合には、希望する画面選択スイッチを押すことにより該スイッチに対応した画面番号がCRT表示部11に送られ、該表示部11はその画面番号に従った画面を表示する。この場合、CRT表示部11が参照している表示位置記憶部15に記憶している操作表示器の表示座標(Xij,Yij)が、希望する画面選択スイツチに対応した画面番号の操作表示器の表示座標に変更されなければならないこと・・・は、・・・自明のことというべきである」(同11頁14行~12頁7行)としたうえで、このことを前提として、引用例発明が「CRT表示部が参照すべき操作表示器の表示座標(表示位置記憶部15に記憶されている)を変更する何らかの変更手段を備えて」(同12頁12~15行)おり、「この・・・表示座標の変更手段を、本願発明のような『表示画面に含まれるスイツチを特定するための情報をスイッチマトリクスに書込み更新するスイッチマトリクス作成部』による手段とすることは、技術常識からすれば、CRT表示部11に該表示部11が参照すべき情報(即ち表示位置記憶部15に記憶された操作器の表示座標)を変更する機能を持たせるための当然の設計的事項にすぎず、また、これによる効果も格別なものとは認められないから、本願発明の上記相違点(3)は当業者であれば容易に想到し得た程度のものである」(同12頁16行~13頁7行)と判断した。

しかしながら、この審決の判断は、次のとおり誤りである。

(1)  引用例には、CRT表示部11が表示位置記憶部15を参照することについて、「CRT表示部11は操作シンボル表示を行なうときに、この表示位置記憶部15を参照して表示位置を判定する」(甲第4号証3頁左上欄3~5行)との記載があるにすぎず、他に審決の上記認定判断を裏付けるような記載は存在しない。そして、引用例の上記記載、「第5図はこの表示位置記憶部15の記憶内容を示したものである。画面番号毎に操作表示器の表示座標Xij,Yijを記憶している」(同欄7~10行)との記載及び図面第5図の表示に照らせば、引用例発明のCRT表示部11は、タッチスクリーン入力処理部14からの画面番号を使用して、画面番号ごとに表示位置記憶部15に記憶されている操作表示器の表示位置(Xij,Yij)のうち、所定のものを読み出すに止まるものと理解するのが最も自然であり、かつ、希望する画面選択スイッチに対応した画面番号の操作表示器の表示座標自体が、既に表示位置記憶部15に記憶されているのであるから、それで十分である。表示位置記憶部15から読み出してきた表示座標を使用して、表示位置記憶部15に記憶されている表示座標(Xij,Yij)を改めて変更するようなことは、技術的に全く無意味である。

したがって、審決が、引用例発明において、「CRT表示部11が参照している表示位置記憶部15に記憶している操作表示器の表示座標(Xij,Yij)が、希望する画面選択スイツチに対応した画面番号の操作表示器の表示座標に変更されなければならないこと」が自明であるとした点は誤りであり、この誤りを前提とした上記判断も誤りであるというべきである。

この点につき、被告は、審決の趣旨が、画面番号が変更されれば、CRT表示部11が参照している操作表示器の表示座標(Xij,Yij)が、変更後の画面番号に係る操作表示器の表示座標に変更されなければならないことが自明であるということであって、表示位置記憶部15に記憶されている操作表示器の表示座標(Xij,Yij)が変更されなければならないということではないと主張するが、審決の「CRT表示部11が参照している表示位置記憶部15に記憶している操作表示器の表示座標(Xij,Yij)が、・・・変更されなければならない」(審決書11頁19行~12頁3行)、「引用例のタッチスクリーン入力処理部14も・・・この変更された表示位置記憶部15の表示座標を参照することとなる」(同12頁7~10行)、「CRT表示部が参照すべき操作表示器の表示座標(表示位置記憶部15に記憶されている)を変更する」(同頁12~14行)、「CRT表示部11に該表示部11が参照すべき情報(即ち表示位置記憶部15に記憶された操作器の表示座標)を変更する機能を持たせる」(同13頁1~4行)との各記載に照らして、審決が、引用例発明について「表示位置記憶部15に記憶されている」表示座標(Xij、Yij)が変更されなければならないものと認定していることは明白である。

(2)  審決の「CRT表示部11が参照している表示位置記憶部15に記憶している操作表示器の表示座標(Xij,Yij)が、希望する画面選択スイツチに対応した画面番号の操作表示器の表示座標に変更されなければならないこと・・・は、・・・自明のことというべきである」との判断に関し、被告は、引用例発明において、操作表示器の表示座標は、画面選択スイッチに対応した画面番号が変更されると異なるものになると主張するが、画面選択スイッチ1~5を操作して表示画面を変更しても、給水量操作器表示2e、2fは、その変更の前後にわたって同一位置に表示されると解することが、引用例発明の目的等により適合するものであり、かつ、このように、表示画面の変更の前後にわたって同一位置に給水量操作器表示2e、2fが表示されるとすれば、操作表示器の表示座標(Xij、Yij)は全く変更する必要がないから、引用例発明において、画面番号が変更されると操作表示器の表示座標が異なるものになるとはいえず、審決の上記判断は、この点においても誤りである。

(3)  審決は、引用例発明が「CRT表示部が参照すべき操作表示器の表示座標(表示位置記憶部15に記憶されている)を変更する何らかの変更手段を備えて」いるとするが、引用例発明の表示位置記憶部15には、画面番号ごとに操作表示器の表示位置が記憶されているのであるから、CRT表示部11は、タッチスクリーン入力処理部14から送られた画面番号を使用して、それに対応する操作表示器の表示位置を表示位置記憶部15からそのまま読み出して来れば十分であり、したがって、引用例発明には、CRT表示部11が参照すべき操作表示器の表示座標の変更手段などというものは何ら必要ではなく、審決の上記判断も誤りである。

(4)  審決の「この・・・表示座標の変更手段を、本願発明のような『表示画面に含まれるスイツチを特定するための情報をスイッチマトリクスに書込み更新するスイッチマトリクス作成部』による手段とすることは、・・・技術常識からすれば、・・・当然の設計的事項にすぎず、また、これによる効果も格別なものとは認められないから、本願発明の上記相違点(3)は当業者であれば容易に想到し得た程度のものである」との判断に関し、被告は、特開昭63ー187726号公報(乙第3号証、以下「周知例3」という。)の記載を引用して、タッチ・スイッチ装置においてタッチ装置と表示内容との対応関係を示すタッチ・スイッチ・テーブル等をメモリに設けること、このタッチ・スイッチ・テーブル等は、表示画面(画像データ、画面番号)の変更に応じて変更されることは、本願発明の出願時において技術常識として理解されていたと主張するが、周知例3は、本願出願日の5か月余り前の日である昭和63年8月3日の出願公開に係るものであって、本願出願当時、その記載内容が周知であったり、当業者の技術常識として理解されていたなどということはあり得ない。

また、「書込み更新」され、表示画面上のスイッチを特定するための情報のみが記憶されるため、その所要メモリサイズが小さくて済む本願発明のスイッチマトリクスと異なり、引用例発明の表示位置記憶部15は、すべての表示画面の操作表示器の表示位置をX-Y座標として一括して記憶するものであるから、所要メモリサイズが極めて大きくなり、マイクロコンピュータで採用することが困難であり(この点は、タッチ・スイッチ・テーブルが、キー画像を含む所定の画像を表示するための画像データとともに、各画像データごとに、パネル制御装置43内のメモリ内に一括して記憶されている周知例3記載の発明においても同様である。)、引用例発明や周知例3記載の発明から、本願発明のスイッチマトリクスが奏する作用効果を予測することは不可能である。

したがって、審決の上記判断も誤りである。

第4被告の反論の要点

審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。

1  取消事由1(一致点の認定の誤り)について

(1)  原告は、引用例発明のタッチスクリーン入力処理部14が接点出力部13を通じて給水制御装置に出力するのは、操作器表示2e、2fのいずれが触れられたかではなく、操作器表示2e、2fのいずれかが触れられたことによって増加又は減少された給水制御設定値であるから、引用例発明のタッチスクリーン入力処理部14が、本願発明の「操作されたスイッチを特定して外部に出力信号として出力するスイッチ検出部」(本願発明の要旨)とは異なるものであると主張する。

確かに、引用例発明の操作器表示2e、2fは、給水流量の増加、減少の操作を行わせること、すなわち、制御対象である給水制御装置に操作量を変更するという制御動作を行わせることを目的として設けられたスイッチであり、その手順として、タッチスクリーン入力処理部14は、タッチスクリーン上に位置する操作されたスイッチのX-Y位置を特定し、次いで、特定されたスイッチに対応する制御動作を実行するため、制御信号を出力しているものである。しかしながら、制御システムにおいて用いられるスイッチは制御対象に様々な制御動作を実行させることを目的として設けられるものであり、引用例発明のように、タッチスクリーン上にスイッチを表示するものにおいては、操作されたスイッチのタッチスクリーン上でのX-Y位置を特定するだけではなく、操作されたスイッチに対応する制御動作に係る制御信号を出力する必要があることは、技術常識として理解できることである。このことは、本願発明においても同様であって、本願明細書の図面(甲第2号証)に実施例として表示されたSW1(運転・停止スイッチ)についていえば、制御対象に運転・停止との制御動作を行わせるためには、タッチスクリーン上の運転・停止のスイッチの座標を特定しただけでは足りず、それらのスイッチに対応する制御動作である運転・停止を制御対象に行わせるための信号を必要とするものであることは明らかである。そして、このことに基づけば、本願発明の「操作されたスイッチを特定して外部に出力信号として出力するスイッチ検出部」との要件における「出力信号」は、操作されたスイッチを特定し、特定されたスイッチに対応する制御動作を制御対象に行わせる信号であると解するのが自然である。

そうすると、上記のとおり、引用例の「タッチスクリーン入力処理部14」もタッチスクリーン上で操作されたスイッチを特定し、そのスイッチに対応する制御動作の制御信号を出力しているのであるから、本願発明の「スイッチ検出部」に相当することは明らかである。

(2)  仮に、本願発明の要旨の「操作されたスイッチを特定して外部に出力信号として出力するスイッチ検出部」との規定における「出力信号」が、そのスイッチに対応する制御動作の制御信号ではなく、当該スイッチが操作された旨を出力するものであって、本願発明の「スイッチ検出部」が引用例の「タッチスクリーン入力処理部14」に相当するとした審決の認定に一致点の誤認があるとしても、次のとおり、その誤認は審決の結論に影響を及ぼすものではない。

すなわち、本願発明のスイッチ検出部と引用例のタッチスクリーン入力処理部14とは、操作されたスイッチを特定して、外部に出力信号を出力するとの点では一致するのであるから、該一致点の誤認は、「外部に出力される信号が、本願発明においては、当該スイッチが操作された旨の信号であるのに対し、引用例発明においては、スイッチに対応する制御対象の制御動作のための信号である」との相違点の看過に帰するものといえる。

しかるところ、本願発明及び引用例発明ともに、タッチスクリーンに表示されるスイッチは、制御対象に制御動作(運転・停止、操作量の変更等)を与えるために設けられているものであり、制御対象に特定の制御動作を実行させるためには、前示のとおり、タッチスクリーン上のスイッチのX-Y位置を特定しただけでは足りず、制御動作を実行させるための信号を必ず必要とするものであるが、この信号を制御装置を構成する要素のどの部分から出力させても、制御動作を実行させるうえでは何ら変わりがないのであるから、制御装置を構成するどの要素から出力させるようにするかは設計上の微差にすぎないというべきである。そうすると、操作されたスイッチを特定して、外部に出力信号を出力するとの点で一致する本願発明のスイッチ検出部と引用例発明のタッチスクリーン入力処理部14とにおいて、引用例発明が制御動作を実行させるための信号を出力するように付加構成し、本願発明がそのような構成を削除したものであっても、その相違は設計上の微差であって、その相違につき容易推考性の判断をしなければならないような実質的な相違であるといえるものではない。

したがって、仮に、審決に原告主張の一致点の誤認があるとしても、その誤認が審決の結論に重大な影響を及ぼすものということはできない。

2  取消事由2(相違点(2)についての判断の誤り)について

(1)  原告は、本願発明が、表示画面作成用のデータを含むコマンドを外部からのコマンドとすることにより、外部の表示操作対象の作動状況に応じて適切な表示画面を自動的に表示することができ、それによって作業員による運転操作を極めて簡単にし、その負担を大幅に軽減することができ、作業員による誤操作を防止して安全性の向上を図ることができるという固有の顕著な効果を奏するものであるとして、「画面作成用のデータを含むコマンドを特に本願発明のように外部からのコマンドとする点に格別の意義および困難性は認められないから、本願発明の上記相違点(2)はコマンドを形成する上での設計上の微差にすぎず、格別なものとはいえない。」とした審決の判断に誤りがあると主張する。

しかしながら、本願発明の要旨は、外部からのコマンドにつき、表示画面作成用のデータを含むとの限定をするのみで、外部の表示操作対象の作動状況に応じて適切な表示画面を自動的に表示する等、原告主張に係る限定をするものではなく、また、その点については、本願明細書の発明の詳細な説明にも何ら記載がない。

(2)  しかるところ、周知例1、2(乙第1、第2号証)に記載されているように、本願出願当時、表示画面との対話形式によって運転操作を実行するための表示操作ユニットの技術分野において、外部からのコマンドによって表示画面を切り換えることが技術常識であり、かつ、この外部からのコマンドが表示画面作成用のデータを含むものであることは当業者が容易に理解できることである。

そして、審決は、かかる技術常識を相違点(2)の判断を行ううえでの前提とし、引用例発明において「表示画面を作るコマンドを形成する」(審決書11頁1~2行)画面選択スイッチ1~5を、上記技術常識である外部からのコマンドに置き換えた場合に、格別の技術的意義が存在するかどうか、あるいは、置き換えることを阻害する事情が引用例発明に存在するかどうかとの観点から検討して、上記判断に至ったものであるところ、引用例発明の画面選択スイッチ1~5を外部からのコマンドに置き換えることの技術的意義は上記技術常識である外部からのコマンドにより表示画面を作成するものから得られる以上のものはなく(本願発明が「表示画面作成用のデータを含む外部からのコマンドに対応して前記ドット表示器の表示画面を作る表示画面作成部」の構成を備えたものであっても、上記のとおり、そのことから直ちに外部の表示操作対象の作動状況に応じて適切な表示画面を自動的に表示できるとはいえない。)、さらに、引用例発明に上記置き換えを阻害すべき事情も存在しない。

この点に関し、原告は、引用例発明において、表示画面を作るコマンドを形成するのはタッチスクリーン入力処理部14であって、画面選択スイッチ1~5は、タッチスクリーン入力処理部14からのコマンドが発生する契機を提供するためのスイッチにすぎず、表示画面を作るコマンドを形成するものではあり得ないから、これを外部からのコマンドに置き換えることには、技術的に阻害要因があると主張する。

しかしながら、引用例の「画面選択操作器表示17の1~5のどれかの表示に対応したタッチスクリーン1の位置を触れた場合、タッチスクリーン制御装置3は前述のようにX-Y座標をプロセス計算機5に転送する。プロセス計算機5のタッチスクリーン入力処理部14はX-Y座標より画面選択操作器表示17のうちのどれかを判断し、画面番号をCRT表示部11に送る。CRT表示部11は画面番号に従った画面・・・を表示する。」(甲第4号証3頁右下欄5~16行)との記載に照らし、引用例発明において、「表示画面を作るコマンド」はタッチスクリーン入力処理部14の出力する画面番号であり、この画面番号は画面選択スイッチ1~5を触れることにより形成されるものであるから、画面選択スイッチ1~5が「表示画面を作るコマンド」を形成するものであるとの認識に何ら誤りはない。

仮に、画面選択スイッチ1~5がタッチスクリーン入力処理部14からのコマンドが発生する契機を提供するためのスイッチであり、表示画面を作るコマンドを直接的に形成するのがタッチスクリーン入力処理部14であるとしても、コマンドと画面選択スイッチ1~5の対応関係が明確に一対一である以上、画面選択スイッチ1~5を「表示画面を作るコマンドを形成する」ものとして認定することに何ら誤りはない。

したがって、審決の相違点(2)についての判断に誤りはない。

3  取消事由3(相違点(3)についての判断の誤り)について

(1)  引用例発明における表示位置記憶部15は、引用例の第5図に示されているように、表示画面に対応する画面番号ごとに操作器表示のX-Y座標を記憶しているもの、すなわち、表示画面ごとに操作器の配置と操作内容の関連付けを記憶するものであることが明らかであり、表示位置記憶部15を参照するに当たっては、画面番号が異なれば表示位置Xij、Yijの意味する操作内容が異なることから、まず、画面番号を特定しなければならないことになる。しかるところ、引用例発明は、プラント運転に関するプロセス制御装置であることから、引用例に具体的な記載はないものの、表示画面ごとに、操作表示器はそれぞれ複数あって、多種多様な操作表示器の配置が表示位置記憶部15に記憶されることが想定される。したがって、操作表示器の表示座標は、画面選択スイッチに対応した画面番号が変更されると異なるものになり、CRT表示部11が変更前に参照していた操作表示器の表示座標(Xij,Yij)は、変更後の画面選択スイッチに対応した画面番号の操作表示器の表示座標に変更されることになる。

審決が「CRT表示部11が参照している表示位置記憶部15に記憶している操作表示器の表示座標(Xij,Yij)が、希望する画面選択スイッチに対応した画面番号の操作表示器の表示座標に変更されなければならないこと・・・・・は、自明のことというべきである」とした趣旨は、上記の事柄を前提として、画面番号が変更されれば、CRT表示部11が参照している操作表示器の表示座標(Xij,Yij)が、変更後の画面番号に係る操作表示器の表示座標に変更されなければならないことが自明であるということであって、表示位置記憶部15に記憶されている操作表示器の表示座標(Xij,Yij)が変更されなければならないということではない。

原告は、審決の上記判断が、表示位置記憶部15に記憶されている表示座標(Xij,Yij)が変更されなければならないとの趣旨であると解し、それを前提として、審決の相違点(3)についての判断が誤りであると主張するが、その前提自体が失当である。

(2)  しかして、周知例3には、「第3図も参照して、パネル制御装置43は、CPUとメモリとを含み、メモリには第4図に示すようなキー画像を含む所定の画像を表示するための画像データが記憶されている。また、このメモリには、各画像データごとに、その画像データによって表示されるキー画像の表わすキャラクター・コードとそのキー画像の位置を表わすX、Y方向座標データとの対応関係を示すタッチ・スイッチ・テーブルが設けられている。・・・このタッチ・スイッチ・テーブルは画像データに基づいて表示にさいして作成してもよい。」(乙第3号証4頁右上欄9行~左下欄5行)との記載があり、この記載に照らして、タッチ・スイッチ装置においてタッチ装置と表示内容との対応関係を示すタッチ・スイッチ・テーブル等をメモリに設けること、このタッチ・スイッチ・テーブル等は、表示画面(画像データ、画面番号)の変更に応じて変更されることは、本願発明の出願時において技術常識として理解されていたものであるところ、審決は、このような技術常識に基づいて、本願発明の「表示画面に含まれるスイッチを特定するための情報をスイッチマトリックスに書込み更新するスイッチマトリックス作成部」を、引用例発明の「表示座標の変更手段」として採用することが当業者であれば容易に想到し得たと判断したものであって、その判断に誤りはない。

原告は、本願発明のスイッチマトリクスが、「書込み更新」され、表示画面上のスイッチを特定するための情報のみが記憶されるため、その所要メモリサイズが小さくて済むと主張するが、そのような作用効果は、引用例及び上記技術常識から当業者が予測できる程度のことである。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1(一致点の認定の誤り)について

(1)  引用例(甲第4号証)には、引用例発明につき、「給水流量操作表示2eの位置をタッチスクリーン1に対して指で触れた場合、タッチスクリーン1はX-Y位置に応じた電気信号をタッチスクリーン制御装置3に対して発する。タッチスクリーン制御装置3はX-Y位置を・・・プロセス計算機5に送出する。また、同時に割込信号を感圧している期間、周期的に発生する。これにより、タッチスクリーン入力処理部14はタッチスクリーン制御装置3からの割込信号があるたびに第7図の流れ図に従って動作する。すなわち、タッチスクリーン制御装置3からのX,Y座標が表示位置記憶部15にあらかじめ記憶している操作器の表示位置と照合し、増もしくは減の操作か判定する。この場合、2eの位置を触れているので“減”操作を行なう。すなわち、・・・CRT表示装置2上の2c、2d表示を変化させるため、あらたに計算された給水制御設定値をCRT表示部11を通じて表示する。また、同時に給水制御設定値を給水制御装置に伝えるため、接点出力部13を通じて接点信号を送出する。」(同号証3頁右上欄8行~左下欄10行)との記載があるところ、この記載によれば、引用例発明のタッチスクリーン入力処理部14が給水制御装置へ出力するものは操作されたスイッチに対応する給水制御設定値であること、いい換えれば、タッチスクリーン入力処理部14が出力する信号は、制御対象である給水制御装置に特定の制御動作を行わせるための制御信号であることが認められる。

しかるところ、被告は、本願発明の「操作されたスイッチを特定して外部に出力信号として出力するスイッチ検出部」との要件における「出力信号」が、操作されたスイッチを特定し、特定されたスイッチに対応する制御動作を制御対象に行わせる信号、すなわち制御信号であるとしたうえで、前示のとおり、タッチスクリーン入力処理部14が制御信号を出力するものである引用例発明も、「操作された操作器表示を特定して給水制御装置などの外部に出力信号として出力する」(審決書7頁6~7行)もので、「操作された操作器表示を特定して外部に出力信号として出力するタッチスクリーン入力処理部14」(同8頁8~10行)を備えるものであると主張するが、本願発明の要旨の「前記スイッチ板の押し操作位置を検出する走査部と、該走査部の出力と前記スイッチマトリクスの内容とを照合し、操作されたスイッチを特定して外部に出力信号として出力するスイッチ検出部」との規定に照らし、そのスイッチ検出部の出力する「出力信号」が「操作されたスイッチを特定し」ただけの信号であって、特定されたスイッチに対応する制御動作を制御対象に行わせる制御信号ではないことが明白であり、被告の前示主張は採用し難く、したがって、引用例発明が「操作された操作器表示を特定して給水制御装置などの外部に出力信号として出力する」(審決書7頁6~7行)ものであって、「操作された操作器表示を特定して外部に出力信号として出力するタッチスクリーン入力処理部14」(同8頁8~10行)を備えるものであるとする審決の認定は誤りであるといわざるを得ない。

そうすると、審決が、本願発明の「スイッチ検出部」が引用例発明の「タッチスクリーン入力処理部14」に相当すると認定し(同8頁16行~9頁3行)、この認定を前提として、本願発明と引用例発明とが、相違点(1)~(3)を除くその他の点で一致すると認定した(同9頁8行~10頁10行)ことは、本願発明のスイッチ検出部の外部に出力する信号が、操作されたスイッチを特定しただけの信号であるのに対し、引用例発明のタッチスクリーン入力処理部14の外部へ出力するものが、操作されたスイッチに対応する制御動作を制御対象に行わせる制御信号である点において異なることを看過したもので、その限度で一致点の誤認があるものというべきである。

(2)  しかしながら、該一致点の誤認が、「外部に出力する信号が、本願発明においては操作されたスイッチを特定しただけの信号であるのに対し、引用例発明においては操作されたスイッチに対応する制御動作を制御対象に行わせる制御信号である」との相違点の看過に帰着することは、上記説示によって明らかである。

この点に関し、原告は、引用例発明について、外部に出力される信号が制御対象の制御動作のための信号であるとすることは、引用例発明の構成を不当に抽象化、一般化するものであると主張するが、「本願発明の表示操作ユニットは電気制御装置用であるのに対し、引用例のもの(注、引用例発明)は原子力発電プラントにおける原子炉給水制御装置に適用したものである点」(相違点(1)、審決書9頁10~13行)が、「表示操作ユニットを単なる電気制御装置に用いたものは出願前きわめて周知であり、かつ、このように電気制御装置に用いた点に格別の意義が存在するものとも解されないから、本願発明の上記相違点(1)は単なる用途の転換にすぎない」(同10頁15~19行)こと(この審決の判断については当事者間に争いがない。)に鑑みれば、本願発明と引用例発明との対比に当たり、引用例発明の構成を、その技術的意義に従って、本願発明の構成と対比することが可能となる限度で抽象化、一般化することは当然であって、原告の前示主張は採用できない。

しかるところ、前示(1)の引用例の記載によれば、引用例発明のタッチスクリーン入力処理部14は、所定の制御信号を出力する前提として、タッチスクリーン制御装置3からのX、Y座標値の出力と、表示位置記憶部15に予め記憶している操作器の表示位置とを照合し、操作された表示器表示を特定する処理を行うものであると認められるが、操作された表示器表示を特定する以上、その表示器表示を特定した信号が出力されるものであることは技術常識というべきであるから、引用例のタッチスクリーン入力処理部14は、その内部において、表示器表示を特定した信号の出力とその入力を併せ行うものと見ることができる。

他方、本願明細書(甲第3号証)には、「この発明は、電気制御装置におけるマンマシンインタフェイス手段として有用な電気制御装置用の表示操作ユニットに関する。」(同号証2頁3~4行)、「この発明の目的は、・・・一般装置機械や工作機械等にも好適に適用することができる新規の電気制御装置用の表示操作ユニットを提供することにある。」(同頁23~27行)、「外部機器は、この出力信号Sにより、先にコマンドCとともに与えたスクリーン番号の特定のディビジョン番号における特定のスイッチSWjの作動を検知することができるから、当該スイッチSWjの押し操作に対応する所定の制御動作を実行することができる。」(同8頁9~12行)との各記載があり、これらの記載によれば、本願発明は、電気制御装置におけるマンマシンインタフェイス手段であって、それのみで使用するものではなく、一般装置機械や工作機械等に適用することによって初めて機能するものであることが認められ、その場合、本願発明の外部出力信号が操作されたスイッチを特定しただけの信号に限定されるとすれば、本願発明以外のマンマシンインタフェイス手段又は外部機器等のいずれかの部分に、該信号を入力し、前示一般装置機械や工作機械等に係る制御対象にその特定されたスイッチの押し操作に対応する所定の制御動作を実行させるための制御信号を出力する構成を設けることが、当該制御動作を実行するうえで必要であることも技術常識ということができる。

原告は、本願発明について、制御対象に特定の制御動作を実行させるためには、制御動作を実行させるための信号を必要とするというような抽象化、一般化をして引用例発明と対比することは不当であると主張するが、前示したところと同様、本願発明の構成を、その技術的意義に従って、引用例発明の構成と対比することが可能となる限度で抽象化、一般化することは当然であって、原告の該主張は採用できない。また、原告は、本願発明が、スイッチに対応する制御動作である運転・停止を制御対象に行わせるための信号を必要としないとも主張するが、前示したように、マンマシンインタフェイス手段又は外部機器等のいずれかの部分に、スイッチの押し操作に対応する所定の制御動作を実行させるための制御信号を出力する構成を設けることが不要であるとの趣旨であれば、技術常識に反する主張であって、採用することができない。

しかして、本願発明及び引用例発明のいずれにせよ、制御対象に制御動作を与えるためにタッチスクリーンに表示されるスイッチを設けた制御装置であり、かつ、以上のとおり、制御対象に所定の制御動作を実行させるための全体としての制御手段としては、操作されたスイッチを特定する信号を出力する構成と、該信号を入力し、操作されたスイッチに対応する制御動作を実行させるための制御信号を出力する構成を設けることが必要であるところ、制御信号を出力する構成を含む引用例発明に対し、本願発明が、該構成を排除し、操作されたスイッチを特定する信号を外部に出力する構成としたこと自体によって、格別の技術的意義を有するに至ったものと解することはできず、また、かかる格別の技術的意義が存することを認めるに足りる証拠もない。

したがって、本願発明と引用例発明との前示相違は、単なる設計上の微小な差異であるにすぎないことが明白であり、そうであれば、審決が、かかる相違点を看過して一致点を誤認したことは、もとより相当であるとはいい難いが、これをもって審決の結論に影響を及ぼすべき審決の瑕疵とまでいうことはできないから、原告の取消事由1に係る主張は、結局失当である。

2  取消事由2(相違点(2)についての判断の誤り)について

(1)  原告は、本願発明が、表示画面作成用のデータを含むコマンドを外部からのコマンドとすることにより、外部の表示操作対象の作動状況に応じて適切な表示画面を自動的に表示することができるものであって、作業員による運転操作を極めて簡単にする等の固有の顕著な効果を奏するものであるから、「画面作成用のデータを含むコマンドを特に本願発明のように外部からのコマンドとする点に格別の意義および困難性は認められないから、本願発明の上記相違点(2)はコマンドを形成する上での設計上の微差にすぎず、格別なものとはいえない。」とした審決の判断が誤りであると主張し、さらに、外部の表示操作対象の作動状況に応じて適切な表示画面を自動的に表示することができることは、本願発明の「表示画面作成用のデータを含む外部からのコマンド」との構成から必然的に導かれる作用効果であると主張する。

しかしながら、本願発明の要旨の「表示画面作成用のデータを含む外部からのコマンドに対応して前記ドット表示器の表示画面を作る表示画面作成部」との規定において、「表示画面作成用のデータを含む」との限定があるにすぎない「外部からのコマンド」に対応して作成される表示画面が、外部の表示操作対象の作動状況に応じて適切な表示画面を自動的に表示するものであるためには、少なくとも、外部の表示操作対象の作動状況を監視するための手段や、作動状況に応じて適切な表示画面を自動的に表示するための手段等に係る構成が必要であるというべきところ、本願発明の要旨には、それらに関する構成が存在しないから、本願発明が、外部の表示操作対象の作動状況に応じて適切な表示画面を自動的に表示することができるものであって、作業員による運転操作を極めて簡単にする等の固有の顕著な効果を奏するとの主張は、本願発明の要旨に基づかないものといわざるを得ない。

また、本願明細書の発明の詳細な説明(甲第3号証)にも、画面作成用のデータを含むコマンドを外部からのコマンドとすることが特段の技術的意義を有する旨の記載は見当たらない。

(2)  原告は、さらに、引用例発明において「表示画面を作るコマンドを形成する」画面選択スイッチ1~5を外部からのコマンドに置き換えることを阻害すべき事情が引用例発明に存在しないとの被告の主張に対し、引用例発明において、表示画面を作るコマンドを形成するのはタッチスクリーン入力処理部14であって、画面選択スイッチ1~5は、タッチスクリーン入力処理部14からのコマンドが発生する契機を提供するためのスイッチにすぎず、表示画面を作るコマンドを形成するものではあり得ないから、これを外部からのコマンドに置き換えることには、技術的に阻害要因があると主張するが、その主張の内容に鑑み、該主張は、審決が「引用例の画面選択スイッチ(1~5)も表示画面を作るコマンドを形成するものであり」(審決書11頁1~2行)とした認定を争うことに帰着するものである。

しかるところ、引用例発明において、画面選択スイッチ1~5自体は、作業員によって触れられるスイッチであるにすぎず、当事者間に争いのない引用例の「画面選択操作器表示17の1~5のどれかの表示に対応したタッチスクリーン1の位置を触れた場合、タッチスクリーン制御装置3は前述のようにX-Y座標をプロセス計算機5に転送する。プロセス計算機のタッチスクリーン入力処理部14はX-Y座標より画面選択操作器表示17のうちのどれかを判断し、画面番号をCRT表示部11に送る。CRT表示部11は画面番号に従った画面・・・を表示する。」(審決書5頁10行~6頁1行)との記載に照らし、表示画面を作るコマンドを直接形成するのは、画面番号をCRT表示部11に送るタッチスクリーン入力処理部14であると解するのが自然である。しかしながら、前示引用例の記載によれば、タッチスクリーン入力処理部14による表示画面を作るコマンドの形成は、画面選択スイッチ1~5が触れられることを契機とし、かつ、画面選択スイッチ1~5と形成されるコマンドとの対応関係は明確に一対一であることが認められるところ、このことと、審決が、「本願発明の表示画面は表示画面作成用のデータを含む外部からのコマンドに対応して作られるのに対し、引用例の表示画面は画面選択操作器表示17(画面選択スイッチ1~5)に対応して作られる点」(同9頁14~18行)を相違点(2)として認定したこと(この相違点(2)の認定は当事者間に争いがない。)とを併せ考えれば、審決の前示「引用例の画面選択スイッチ(1~5)も表示画面を作るコマンドを形成するものであり」との認定は、引用例発明が、画面選択スイッチ1~5に対応して表示画面を作るコマンドを形成するものであるとの趣旨であることが認められ、そうであるとすれば、審決の前示認定は、その措辞適切を欠くが、誤りということはできない。

以上のことに鑑みれば、引用例発明において「表示画面を作るコマンドを形成する」画面選択スイッチ1~5を外部からのコマンドに置き換えることを阻害すべき事情が引用例発明に存在しないとの被告の前示主張は、引用例発明において、画面選択スイッチ1~5に対応して形成される表示画面を作るコマンドを、外部からのコマンドに置き換えることを阻害すべき事情が引用例発明に存在しないとの意味であることが明白であり、そして、引用例(甲第4号証)の記載に照らして、かかる阻害要因は存在しないものと認められる。

(3)  前示(1)、(2)によれば、本願出願当時、表示画面との対話形式によって運転操作を実行するための表示操作ユニットの技術分野において、外部からのコマンドによって表示画面を切り換えることが技術常識といい得るものであったかどうかにかかわらず、引用例発明において、画面作成用のデータを含むコマンドを外部からのコマンドに置き換えることに、格別の技術的意義及び困難性があるものとは認められず、そうだとすると、相違点(2)について、「コマンドを形成する上での設計上の微差にすぎず、格別なものとはいえない」とした審決の判断に誤りはない。

3  取消事由3(相違点(3)についての判断の誤り)について

(1)  引用例に「14はタッチスクリーン入力処理部で、タッチスクリーン制御装置3からのデータを処理し、CRT表示部11を起動する。15は表示位置記憶部であって、操作器表示のCRT表示画面上のX-Y座標を画面番号に記憶している。CRT表示部11は操作シンボル表示を行なうときに、この表示位置記憶部15を参照して表示位置を判定する。また、タッチスクリーン入力処理部14は入力位置判定時同様に表示位置記憶部15を参照する。第5図はこの表示位置記憶部15の記憶内容を示したものである。画面番号毎に操作表示器の表示座標Xij、Yijを記憶している。」(審決書4頁12行~5頁4行)、「第8図はCRT表示装置2上に表示される操作パネル図の他の例を示したものである。・・・17は画面選択操作器表示であって、この図において1~5の画面選択スイッチを意味する。今、画面選択操作器表示17の1~5のどれかの表示に対応したタッチスクリーン1の位置を触れた場合、タッチスクリーン制御装置3は前述のようにX-Y座標をプロセス計算機5に転送する。プロセス計算機のタッチスクリーン入力処理部14はX-Y座標より画面選択操作器表示17のうちのどれかを判断し、画面番号をCRT表示部11に送る。CRT表示部11は画面番号に従った画面、即ち、第7図においては給水制御にかかわる2つの事前に定められたプロセス量、たとえばタービン駆動原子炉給水ポンプ流量A,Bに関するデータを表示する。」(同5頁6行~6頁1行)との各記載があることは当事者間に争いがない。

これらの記載によれば、引用例発明は、①画面選択操作器表示17の画面選択スイッチ1~5のいずれかに触れると、タッチスクリーン制御装置3は触れられた位置を示すX-Y座標をタッチスクリーン入力処理部14に転送(出力)し、②タッチスクリーン入力処理部14は、表示位置記憶部15に記憶された操作表示器の表示座標Xij、Yijを参照することによって、触れられた位置を示すX-Y座標から画面選択スイッチ1~5のうちのいずれが触れられたかを判断するとともに、その触れられたスイッチに対応する画面番号をCRT表示部11に送出し、③CRT表示部11は、画面番号に従った画面を、表示位置記憶部15に記憶された操作表示器の表示座標Xij、Yijを参照して、操作表示器の表示位置を判定したうえ表示するものであることが認められる。

そして、さらに、引用例(甲第4号証)の「第5図は第4図の表示位置記憶部のメモリマップ」(同号証4頁左下欄4~5行)との記載及び図面第5図の表示を併せ考えれば、画面選択スイッチに対する押し操作によって、CRT表示部11に送出される画面番号に変更が生じる場合には、CRT表示部11が参照している操作表示器の表示座標Xij、Yijも、画面番号ごとに記憶されている表示座標のうちの、当該変更に伴う新たな画面番号に対応して記憶されている表示座標Xij、Yijに変更されるものと認めることができる。

そうすると、審決が、「引用例のCRT表示装置2に表示される選択画面を変更する場合には、希望する画面選択スイッチを押すことにより該スイッチに対応した画面番号がCRT表示部11に送られ、該表示部11はその画面番号に従った画面を表示する。この場合、CRT表示部11が参照している表示位置記憶部15に記憶している操作表示器の表示座標(Xij,Yij)が、希望する画面選択スイツチに対応した画面番号の操作表示器の表示座標に変更されなければならないこと・・・は、・・・自明のことというべきである」とした判断に誤りはない。

原告は、審決の上記判断に係る記載のほか、「引用例のタッチスクリーン入力処理部14も・・・この変更された表示位置記憶部15の表示座標を参照することとなる」、「CRT表示部が参照すべき操作表示器の表示座標(表示位置記憶部15に記憶されている)を変更する」、「CRT表示部11に該表示部11が参照すべき情報(即ち表示位置記憶部15に記憶された操作器の表示座標)を変更する機能を持たせる」との各記載を挙示して、審決の上記「CRT表示部11が参照している表示位置記憶部15に記憶している操作表示器の表示座標(Xij,Yij)が、・・・変更されなければならない」との説示が、表示位置記憶部15に記憶されている操作表示器の表示座標(Xij,Yij)が(すなわち、記憶内容そのものが)変更されなければならないことをいうものであるとし、これを自明とした審決の判断が誤りであると主張する。

しかしながら、引用例の前掲各記載と、審決が相違点(3)の判断に当たり該記載を引用していること(審決書11頁13行の「引用例の記載『A』および『B』」がこれに当たる。)とに照らして、審決が自明であるとした「CRT表示部11が参照している表示位置記憶部15に記憶している操作表示器の表示座標(Xij,Yij)が、・・・変更されなければならない」こととは、前示のとおり、CRT表示部11が参照している操作表示器の表示座標Xij、Yijが、画面番号ごとに記憶されている表示座標のうちの、当該変更に伴う新たな画面番号に対応して記憶されている表示座標Xij、Yijに変更されなければならないとの趣旨であることが明白であって、原告が挙示する前示の審決の各記載もこのように解することを妨げるものではないから、原告の前示主張を採用することはできない。

また、原告は、表示画面を変更しても、給水量操作器表示2e、2fは、その変更の前後にわたって同一位置に表示されると解することが、引用例発明の目的等により適合するものであり、このように、表示画面の変更の前後にわたって同一位置に給水量操作器表示2e、2fが表示されるとすれば、操作表示器の表示座標(Xij、Yij)は全く変更する必要がないから、引用例発明において、画面番号が変更されると操作表示器の表示座標が異なるものになるとはいえないとも主張するが、CRT表示部11に送出される画面番号に変更が生じる場合に、CRT表示部11が参照している操作表示器の表示座標Xij、Yijも、当該変更に伴う新たな画面番号に対応して記憶されている表示座標Xij、Yijに変更されるものと認められることは前示のとおりである。原告の該主張は、何らの根拠にも基づかないものといわざるを得ない。

(2)  また、原告は、引用例発明が「CRT表示部が参照すべき操作表示器の表示座標(表示位置記憶部15に記憶されている)を変更する何らかの変更手段を備えて」いるとした審決の判断に対し、表示位置記憶部15には、画面番号ごとに操作表示器の表示位置が記憶されているのであるから、CRT表示部11は、タッチスクリーン入力処理部14から送られた画面番号を使用して、それに対応する操作表示器の表示位置を表示位置記憶部15からそのまま読み出せば十分であり、引用例発明に、CRT表示部11が参照すべき操作表示器の表示座標の変更手段は必要でないと主張するが、引用例発明においては、CRT表示部11が、操作表示器の表示位置を判定するために、表示位置記憶部15に記憶された操作表示器の表示座標Xij、Yijを参照するのみならず、タッチスクリーン入力処理部14も、画面選択操作器表示17の画面選択スイッチ1~5のいずれが触れられたかを判断するために、表示位置記憶部15に記憶された操作表示器の表示座標Xij、Yijを参照するものであることは前示のとおりであり、そうすると、画面番号の変更に対応して表示位置記憶部15に記憶された操作表示器の表示座標Xij、Yijが変更されなければならないこと、及びそのために何らかの変更手段が必要であることは明白であり、原告の該主張も採用することができない。

(3)  しかるところ、本願発明のような表示操作ユニットにおいて、表示画面に含まれるスイッチの位置に係るX-Y座標等と対比照合して、当該スイッチを特定するためのデータの収納領域をメモリに設け、かつ、表示画面の変更(したがって表示画面に含まれるスイッチの変更)の際、当該収納領域に書き込まれたデータを新たな表示画面に対応したデータに更新するようなことは、その技術内容に照らして、本願出願当時、周知の技術であったものと認められ、周知例3(乙第3号証)に「第3図も参照して、パネル制御装置43は、CPUとメモリとを含み、メモリには第4図に示すようなキー画像を含む所定の画像を表示するための画像データが記憶されている。また、このメモリには、各画像データごとに、その画像データによって表示されるキー画像の表すキャラクタ・コードとそのキー画像の位置を表すX、Y方向座標データとの対応関係を示すタッチ・スイッチ・テーブルが設けられている。・・・このタッチ・スイッチ・テーブルは画像データに基づいて表示にさいして作成してもよい。」(同号証4頁右上欄9行~左下欄5行)との記載があることも、このことを裏付けるものということができる。

そして、そうであれば、前示周知技術に基づく技術常識として、引用例発明において、該周知技術を前示画面番号の変更に対応して表示位置記憶部15に記憶された操作表示器の表示座標を変更するための変更手段とすることは、当然に採用することのできる設計事項の範囲を出るものではないというべきであり、その効果も、予測を超える格別なものがあるということはできない。したがって、審決が、「この・・・表示座標の変更手段を、本願発明のような『表示画面に含まれるスイツチを特定するための情報をスイッチマトリクスに書込み更新するスイッチマトリクス作成部』による手段とすることは、・・・技術常識からすれば、・・・当然の設計的事項にすぎず、また、これによる効果も格別なものとは認められないから、本願発明の上記相違点(3)は当業者であれば容易に想到し得た程度のものである」と判断したことに誤りはない。

原告は、周知例3が、本願出願日の5か月余り前の日の出願公開に係るものであって、本願出願当時、その記載内容が周知であったり、当業者の技術常識として理解されていたなどということはあり得ないと主張するが、前示のとおり、前示の技術は、本願出願当時、既に周知であったものと認められるが、必ずしも周知例3の頒布によって周知であったものとは認められないから、原告の該主張はその前提を欠くものである。

また、原告は、引用例発明や周知例3記載の発明から、所要メモリサイズが小さくて済むとの本願発明のスイッチマトリクスが奏する作用効果を予測することは不可能であるとも主張するが、該作用効果は、前示周知技術から当業者が当然予測できる程度のものであるというべきであるから、この主張も採用し難い。

4  以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

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